―春名芙蓉先生のお嬢さんがこう語っておられました
◆娘からみた母
私たちが朝起こしてもらった時には、母はもう着物を着て、お化粧も済ませていました。冬の寒い時には、熱いタオルを用意してくれていましてね。そのころは小さなストーブしかなくてずいぶん寒かったことを覚えていますが、目が覚めたら、母は「はい」と言って、温かい蒸しタオルを私たちの顔に当ててくれるんです。それが暖かくて気持ちよくて、すぐに目が覚めました。それに、ブラウスをストーブにかざしておいてくれて、「はい」って着せてくれるんです。だから、すごく気持ちのいい目覚めができました。小学生の時からでしたね。
母は、どんなに忙しい中でもそうしてくれました。呉服店をしていましたから、店先の道に水打ちして、きれいに掃除して、お客様を迎える用意もしないといけないので、朝早くから起きて、ゆとりを持って全てをしてくれていました。今思えば、胸が熱くなるんですけれど。
―春名芙蓉先生の息子さんがこう語っておられました
◆母の後姿が焼きついて
それはもう、焼きついて離れないですね。母の割烹着姿、それに後ろ姿もね。湯気が立ち上る中で、母が料理をしている後ろ姿。学校から帰るといつもその後ろ姿が一番に目に飛び込んできたという印象が残っていますね。
母は、普段、着物以外を着ることがなかったんですね。私たちが目が覚めた時はもう着物姿で、それが夜寝るまでずっと。五十代後半までそれが母のイメージ。だから、着物姿というのが母のイメージで、その上に割烹着を着ていたというのが、私たちの思い出す姿なんですね。でも、母が六十前になって運転免許を取りに行くということになって、そのころから洋服を着て活発に行動するようになりました。それから、がらっとイメージが変わって、びっくりしましたね。もちろん今でもお茶をする時などは母も着物を着ていますが、そんな時は昔を思い出して懐かしいなと思うこともあります。